静岡県湖西市鷲津地区にある「本興寺(ほんこうじ)」は、東海地方でも有数の格式と歴史を持つ寺院です。
一歩足を踏み入れると、街の喧騒を忘れるような静かな空間が広がっています。
室町時代に建てられた国指定重要文化財の本堂や、江戸時代の有名な画家・谷文晁の絵画が残ることから「文晁寺」とも呼ばれる文化的な側面、そして徳川家康との深い縁など、多くの見どころを持つ場所です。
今回は、本興寺の歴史と特徴についてご紹介します。
目次

本興寺の正式名称は「常霊山大悲院 本興寺」といいます。
1383年(永徳3年)に開山され、600年以上にわたり信仰を集めてきました。
本興寺の特徴は、地方にありながら京都や奈良の大寺院にも匹敵するような貴重な文化財や伝説を持っていることです。
広い境内には、国の重要文化財である本堂をはじめ、三河国の吉田城から移築されたと伝わる書院や山門など、歴史ある木造建築が並んでいます。
また、江戸時代後期を代表する画家の谷文晁がこの寺に滞在し、傑作とされる「四季山水図」などを残したことから、別名「文晁寺」としても親しまれています。
さらに、詩人の北原白秋や俳人の星野立子もこの地を訪れており、その美しさを詠んだ歌碑や句碑が境内に残されています。
天狗が住職との囲碁の勝負に負けた際に爪痕を残したという「天狗の碁盤」の伝説など、不思議な逸話も語り継がれているお寺です。
ここからは、本興寺を訪れたら絶対に見逃せない3つの見どころを、詳しくご紹介します。

本興寺を訪れてまず圧倒されるのが、参道の先に堂々と姿を現す巨大な「本堂」です。
1552年(天文21年)に再建されたこの建物は、桁行7間(約14メートル)、梁間7間という規模を誇る壮麗な木造建築で、国の重要文化財に指定されています。
最大の特徴は、現在では大変貴重な茅葺き屋根です。
美しく刈り揃えられた茅葺きの曲線は優雅でありながら、どっしりとした安定感があり、日本の伝統建築の美しさを凝縮したような存在感を放っています。
当時の大工の高い技術がうかがえる力強い造りは一見の価値があります。
本堂の中は、外からの光がやわらかく差し込み、落ち着いた薄暗さに包まれています。
中央には立派な須弥壇が静かに佇み、長い年月を経た柱や床には、積み重ねられた祈りの歴史が感じられます。
また、本興寺が「文晁寺」とも呼ばれる由縁である、谷文晁の作品群も見逃せません!
谷文晁は江戸時代に「関東南画の泰斗」と称された巨匠で、本興寺に滞在した際に「四季山水図」などの障壁画を描いたと伝わります。
大胆な筆致と繊細な墨の濃淡が調和するその作品は、寺の格式を一層高めています。
さらに、前述した「天狗の碁盤」の伝説も、本興寺の神秘性を象徴する一篇です。
碁好きの住職に勝てなかった天狗が、悔しさのあまり碁盤を引っ掻いたとされる傷跡が残っているといいます。

堂内は落ち着いた雰囲気に包まれており、積み重ねられてきた歴史の重みを感じることができます。

本興寺の見どころとして挙げられるのが、四季を通して美しい姿を見せる「庭園」です。
は「蓬莱式池泉観賞式庭園」と呼ばれる客殿の北側に広がる庭園は、江戸時代初期の大名茶人であり、作庭家としても名高い小堀遠州の手によるものと伝えられています。

背後の自然林を景色の一部として取り入れた造りで、池や石組みの配置が美しく、見る人の心を和ませてくれます。
また、本興寺は「花の寺」としても知られています。
石組みや植栽、そして池の配置が素晴らしく、どこから見ても絵になる景色です。
静かで落ち着いた雰囲気があり、訪れるだけで心が癒やされます。

春になると境内には数百本の桜が咲き誇り、毎年「桜まつり」が開催されます(※毎年3月末開催)。
ソメイヨシノやシダレザクラが歴史ある建物と共に彩る光景は、思わず息をのむほどの華やかさです。
また、5月から6月にかけてはサツキやミヤマツツジが庭園を鮮やかに染めます。
新緑の力強い緑と、花々のコントラストは、まさに極楽浄土を思わせる美。
四季ごとに全く違う表情を楽しめるのも、この庭園が愛される理由の1つです。
この美しい風景は、多くの文人たちをも魅了してきました。
昭和7年、鷲津の「観潮楼」に滞在していた詩人・北原白秋は、本興寺を散策し、そのあまりの静寂さに心を打たれました。
「水の音ただにひとつぞきこえける そのほかはなにも申すことなし」という歌は、白秋がこの場所で感じた純粋な感動をそのまま表現したものです。
また、俳人・星野立子も「花の寺 静かな人出 中に歩す」という句を残しており、それぞれの石碑が境内にひっそりと立っています。
先人たちと同じ景色を前に、文学の余韻に浸りながら歩くひとときも魅力です。
3つ目の見どころは、戦国時代の英雄・徳川家康との深い縁です。
浜松城を拠点としていた若き日の家康にとって、浜名湖周辺は重要な要衝でした。本興寺もその歴史の舞台の1つであり、家康から特別な庇護を受けていました。
本興寺は、家康から「10万石」という大名並みの高い格式を与えられ、さらに徳川将軍家の家紋である「三つ葉葵」の使用を許されていました。
これは当時としては特別な待遇であり、いかに家康がこの寺を重んじていたかが分かります。
そのため、境内の建物の瓦や装飾など、随所に葵の紋を見つけることができます。
この待遇の背景には、個人的な繋がりもありました。
実は、本興寺の第十世・日梅上人の姉にあたる「西郡局」は、家康公の最初の側室となった人物です。
彼女は家康公の次女である督姫の生母でもあります。
境内には今もなお西郡局のお墓があり、歴史ファンにとっては聖地のような場所となっています。
さらに、寺内には徳川歴代将軍の位牌が並ぶ「将軍家御霊屋」も安置されています。
戦国の世を生き抜き、徳川の平和な時代を精神的に支えてきた本興寺。
その背景にある人間ドラマや歴史の重みを感じながら参拝すると、ただの古いお寺とは違った、奥行きのある景色が見えてくるはずです。
住所:静岡県湖西市鷲津384
拝観時間:9:30から16:00(冬季は15:30まで)
拝観料:大人300円(小人150円)
※奥書院のみ
花の見頃の時期は来訪者がピークとなります。
・男女トイレあり
※多目的トイレはありません
・御朱印や本興寺関連のグッズなど販売
本興寺周辺には、家族でもカップルでも一人でもおすすめの飲食店があります。
・ふる里
・玉川屋
・Sucre
ぜひ、本興寺に訪れる際は、周辺飲食店もあわせてお楽しみください!
\\浜松・浜名湖の//
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今回は、湖西市が誇る名刹「本興寺」の魅力をご紹介しました。
国指定重要文化財である茅葺きの本堂が放つ圧倒的な存在感、小堀遠州作の名庭園が見せる四季折々の美しさ、そして徳川家康や西郡局との深い縁が生んだ格式の高さ。
これらすべてが、1つの境内で調和しているのが本興寺の凄みです。
現代の忙しい日常から離れ、静かな環境で歴史や文化に触れてみてはいかがでしょうか。
【取材・文・写真】佐藤 拓真
【写真】湖西フォトコンテスト2023推薦作品
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