湖西市入出にある「正太寺(しょうたいじ)」は、浜名湖西岸に建つ歴史ある古刹です。
本堂の背後には、戦国期の山城「宇津山城(うづやまじょう)」跡が残り、お寺と城跡が同じ丘に並ぶ珍しいスポットとして知られています。

静かな水辺に深い歴史が重なり、湖西なら自然美と戦国史を1度に感じることができる場所です。
今回は、正太寺と宇津山城跡の歴史や見どころ、散策のポイントをわかりやすくご紹介します。
目次
「正太寺(しょうたいじ)」と「宇津山城(うづやまじょう)」跡は、浜名湖西岸の同じ丘に位置し、寺と城が一体となって歴史を刻んできた希少なスポットです。
山麓のお寺は武士たちの心の拠り所となる祈りの場として、山上の城は浜名湖を望む防衛拠点として機能し、この丘全体が 軍事と信仰の両面を支える重要な拠点となっていました。
まずは、正太寺と宇津山城跡の歴史的背景を紐といてみましょう。
正太寺は、応仁元年(1467年)に開かれた古刹で、戦国時代にはこの地を治めた今川氏の重臣・朝比奈紀伊守泰満が本堂を建立したといわれています。

その後、正太寺は、宇津山城の歴代城主が帰依した「守護寺」として、武士たちの心の拠り所であり続けました。
本尊は聖観世音菩薩。平安時代に浜名湖から流れ着いたという伝承を持ち、古くから地域の安全と平穏を見守る“水辺の守り神”として信仰されています。
正太寺の背後に広がる宇津山城は、三河と遠江の国境に位置する「天然の要害」として築かれた山城です。

標高約50メートルの丘陵全体が城としての機能を持ち、眼下の浜名湖は敵の侵入を阻む巨大な水堀の役割を果たしていた点が大きな特徴です。
永禄11年(1568年)には、徳川家康の遠江侵攻に伴い、激しい攻防の末に落城。しかし、現在もその遺構は、寺の裏山として大切に保存されています。
正太寺が建つ入出(いりで)の丘は、浜名湖にぐっと突き出した岬のような地形をしています。
そのため、境内はまるで湖上の特等席。視界を遮るものがなく、穏やかな湖面と対岸の町並みをパノラマで一望できます。

季節ごとに移り変わる美しい風景には、何度訪れても心が洗われるようです。

夕暮れ時の美しさも格別です。西の山並みに夕陽が沈む頃、湖面は黄金色に輝き、境内は言葉を失うほど幻想的な空気に包まれます。
また、正太寺は高台にあり、周囲を遮るものがないため、浜名湖から登る「初日の出」を眺められるスポットとしても人気です。
さらに境内奥には、地元の人々の厚い信仰を集める「宇津山稲荷大明神」が鎮座しています。
森の緑に映える鮮やかな赤い鳥居は、フォトスポットとしても人気ですが、元々は漁師や旅人の安全を守ってきた切実な祈りの場。
絶景の中に息づく、温かな人の想いを感じてみてください。
正太寺の裏山である「宇津山城跡」へ足を踏み入れると、空気はガラリと変わり、身が引き締まるような戦国の気配に包まれます。

宇津山城は、眼下に広がる浜名湖を、天然の堀、そして移動ルートとして最大限に利用した「水運の城」です。 その最大の特徴が、湖岸にひっそりと残る「舟隠し場」の遺構です。
入り江のように掘り込まれた「舟隠し場」は、敵から見えないように軍船を隠し、いざという時には城主が湖へ逃れるための秘密の港でした。
永禄11年(1568年)、徳川家康の軍勢に攻められた城主・小原鎮実が、炎上する城を背にここから船を出し、夜の湖へと消えていったというドラマチックな史実が残っています。
山頂に残る「土塁」や「曲輪」の跡とともに、陸と湖の両方で戦った武将たちの知恵と執念を、今の世に伝えています。
歴史の激しさを知った後は、静かな癒やしの時間が待っています。境内から城跡にかけての山道には、昭和初期に地域の人々の手によって整備された「弘法大師八十八ヶ所ミニ霊場」が続いています。

木漏れ日が降り注ぐ小径(こみち)には、長い年月を経て苔むした石仏たちが点在し、訪れる人を穏やかな表情で迎えてくれます。
一番、二番と石仏を巡りながら、土の感触を足裏に感じて歩く時間は、まるで「歩く禅」のよう。
一歩進むごとに日常の喧騒が遠ざかり、心がシンプルに洗われていくのを感じるでしょう。

遊歩道のハイライトは、城跡の高台から見下ろす景色です。かつては武士たちが敵を見張っていた場所ですが、今はただ、湖を渡る風の音と鳥のさえずりに耳を傾ける癒しの空間となっています。
争いの歴史を乗り越え、地域の人々が「祈りの道」として再生させたこの場所は、現代を忙しく生きる私たちにこそ必要な、安らぎの空間といえます。

・所在地:静岡県湖西市入出800
・アクセス:JR東海道本線「鷲津駅」から車(タクシー等)で約15分
・駐車場:あり(3台)
・散策の注意点:
裏山の散策路や城跡周辺は、季節によって草木が生い茂り、足元が土のままの場所も多いため、スニーカーなど歩きやすい靴での訪問をおすすめします。
かつて国境を守るために築かれた「宇津山城」跡と、その城主たちが心の平穏を求めた「正太寺」。

宇津山城跡と正太寺は、相反するようでありながら、実は互いに支え合ってきた歴史の証です。
湖からの風に吹かれながら境内や城跡を歩けば、ここが単なる観光地ではなく、人々の暮らしと祈りが途切れることなく続いてきた“時の交差点”であることが感じられるはずです。
歴史好きの方はもちろん、静かな場所で心をリセットしたい方にもおすすめのスポットですので、ぜひ足を運んでみてくださいね。
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【取材・文・写真】佐藤 拓真
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